イージスアショア計画の撤回

イージスアショア計画が撤回されることになりました。

軍事の専門家ではない私が、ことの是非を論じることはできませんが、気になることを少々を挙げてみます。


<そもそも必要だったのか?>


イージス艦による迎撃に加え、常時陸上から監視、弾頭ミサイルを迎撃できるとの構想自体は歓迎しない理由のないことでした。

素人目にも、海上イージス艦を待機させつづけるよりも効率的でしょうし、イージス艦との併用で迎撃できる確率も高まることは想像できます。

また、イージス艦は本来、ミサイル迎撃のためだけに運用されているわけではなく、有事には敵艦の攻撃任務がありますし、本来こちらが主任務でしょう。

 

米国が自信をもって売り込むくらいのシステムであれば、さぞ米国で活躍しているかと思ったのですが、実は米国での配備はありません。

有用性に期待できると思える一方で、このミサイル防衛システムが展開されているのは、世界でもルーマニアのみ、米国はハワイに試験用の設備を持っているだけです。
なお、ポーランドでも建設中ですが、完成は当初予定よりも遅れ、2021年を見込んでいます。

米国のミサイル防衛事情として、攻撃側の特性に合わせて、様々な迎撃ミサイルシステムを運用しています。
ICBMから短距離ミサイル、航空機宿ローンを迎撃するため対空ミサイルまで網羅しています。


◆米国の主なミサイル防衛システム

 

イージス艦:短・中距離のミサイルを迎撃。米海軍、海上自衛隊が配備

・地上配備型中間段階防衛:可動性なし。ICBM・中距離弾道ミサイルを迎撃。アラスカ州カリフォルニア州に配備

・THHAD:可動性あり。大気圏外でミサイルを迎撃。米国、グアム、UAE、韓国に配備

パトリオット:可動性あり。ドローン、巡航ミサイル、短距離弾道ミサイルを迎撃。米国、日本等の同盟国に配備

・アベンジャーシステム:可動性あり。巡航ミサイル、ドローン、航空機などに対応。米国、同盟国に多数配備


素人ながら、ロッキード・マーティン製のイージスアショアについて、米国自身がどれほど信頼しているのか、少々疑問に感じてしまう一面ではあります。

 

もっとも「攻撃は最大の防御」と考えると、米国は「防衛」よりも、「攻撃」によって敵にミサイルを打たせないことで、抑止力を確保しています。

ICBM原子力潜水艦発射、戦闘機からの核攻撃力で旧ソ連にも、現在のロシアや中国に対峙しているので、ミサイル防衛への必要性は日本よりも差し迫った感はないのかもしれません。

 

根本的には、いつ飛来するかもわからないミサイルを打ち落とすよりも、敵に対しても、いつミサイルを撃ち込むかわからない、ミサイルを撃ち込めば報復されると敵国に思わせるほうが抑止力になるということです。


<日本の防衛予算>

予算に限りはありますし、いくら最重要であっても、防衛予算だけに振り分けることはできません。
しかし、そもそも日本防衛のために現在の予算は十分なのでしょうか?

イージスアショアが日本防衛の最適解ではないとしても、少しでも日本の安全に寄与するなら、4千億円もまったく無駄ではないとも言えないのでしょうか?

 

NATO加盟国は、算出方法も色々あるので、その額が十分とも不十分とも言えませんが、GDPの2%に相当する
金額を拠出することが目標になっています。

現実的には、この目標を達成していない国が多いのですが、決して裕福と言えない国でも2%の基準を達成している国もあります。

参考までに、日本の数値はGDP比で1%に満ちません。

 

仮に、日本にも2%ルールを適用しても、まだ中国の軍事費よりもすくなく、無駄なコストはかけられないにせよ、イージスアショアを導入できる余裕も生まれるでしょう。

イージスアショアをわきに置いておくにせよ、NATO諸国よりも遥かに深刻な危機に瀕する国の防衛費として、絶対額が少なすぎるのではないでしょうか?

 

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<そもそも専守防衛は機能するのか?>

 

広島、長崎に原爆が投下された時に、B-29は広島、長崎の上空に侵入したわけですが、今日のミサイル攻撃であれば、敵は日本の領土どころか、領空を侵犯せずに、自らを危険にさらさずに事済みます。
もちろん、サイバー、宇宙空間からの攻撃でも、領土に全く踏み込まれません。

少なくとも敵も自ら攻撃されることを覚悟で日本の領域に踏み込まれるまで、日本は攻撃しないとの文字通りの専守防衛は70年前であれば成り立ったかもしれません。
しかし、今日では単なる絵空事でしかないのではないでしょうか?

 

一旦、「専守防衛」の思考停止を投げ捨てて、実際に機能する手段を考える時なのでしょう。「専守防衛」を「平和国家日本の象徴」のように主張する向きもありますが、中国や北朝鮮さえ、実態は全く別であっても、表面上は自国を守る以外に軍事力を使わないと謳っています。

まず、軍事合理性を考え、それが財政や技術の面で実現できるのかを検討したうえで、日米同盟との整合性など、検討しなくては、まともな議論ができません。

単に「予算の無駄」や「ブースターが落下して危険」や、ましてや外国のご機嫌伺いではなく、自国防衛を最も効果的・効率的にできることを検討し、そのうえで対外関係を含めた政治的な損得を含めた戦略として議論すればいいのではないでしょうか?

コロナで大騒ぎしていますが、軍事的な有事はコロナ禍の比ではないくらいの衝撃と実害を日本にもたらすでしょうから。 

 

※参考資料

Missile Defense Advocacy Alliance
http://missiledefenseadvocacy.org/missile-defense-systems-2/missile-defense-systems/u-s-deployed-intercept-systems/aegis-ashore/