中国による豪州への制裁措置

豪州は、今や日本を凌ぎ最大貿易相手国になった中国と対立を深めています。

鋭く対立というよりも、中国が豪州を一方的に締め上げていると表現したほうが実態に近いでしょう。牛肉に小麦、石炭などの輸入減少、留学生の送り出し停止など、中国依存の度合いが強い豪州には、こたえる報復が続いています。
日本にとっても、改めて中国リスクを認識させられる事態です。

 

豪州の2018-19財政年度で、中国への輸出額は2位の日本を2.5倍ほど上回る1532億豪ドル(約11.3兆円)で、輸出品目も鉄鉱石、石炭、天然ガスがベスト3を占めるなど、需要が特定の国に依存している構図です。

 

中国を最も得意客とする豪州ですが、近年、中国とのトラブル(もっとも先に手を出しているのは中国です)が増加しています。

 

豪州は南シナ海での中国による埋め立てや軍事化を批判しており、太平洋方面での中国海軍の動きに神経を尖らせいてます。また、豪州国内でも中国に起因する問題が多発しています。豪軍の利用だけでなく米軍も寄港するダーウィン港が中国共産党フロント企業に長期貸与されていたり、中国人実業家が豪州政界に多額の政治献金や賄賂を贈り、豪州政府の対中政策への工作や世論工作を図るなどの内政干渉さえ発生しています。

 

このような中国の脅威に対して、豪州も手をこまねいているわけではなく、外資による重要インフラの買収を審査する「クリティカル・インフラストラクチャー・センター」
を設置したり、内政干渉に対抗する立法措置を取るなどの対策を進めています。
また、海底ケーブルの設置事業や、通信の5G整備からファーウェイを除外しました。

 

翻って日本にとって、中国による豪州への「嫌がらせ」ともいえる対抗策は対岸の火事なのでしょうか。

 

日本の輸出相手は中国がシェア19.5%を占めて首位です(米国は2位の19%。ともに2018年)。
貿易品目が、一次産品や観光、観光の延長ともいえる留学生受け入れなどに偏っている豪州と比べると、日本は依然中国が必要な高度な工作機械や材料など高付加価値なものを輸出していますし、一概に豪州の境遇とは比較できませんが、豪州の苦闘を他山の石とするべきでしょう。

 

外為法改正、国家安全保障局の経済班による安全保障に関する産業への外資による投資の監視や規制も強化する動きも見られますが、無秩序な外国人による土地取引でも将来的に禍根を残さないかをよく検討する必要がります。

 

いわゆる包括的なスパイ防止法さえ存在しない日本にあって、我々が気づいていないだけで、中国あるいは外国からの政治工作や世論操作が起きていない、今後も起きないと誰が言えるのでしょうか。

 

過度に中国に接近しすぎた反動もあるのでしょうが、経済的に不利益が生じても、外国の圧力に立ち向かっている豪州の姿勢を注視すべきでしょう。そのような状況下で10月6日、日米豪印外相会合が東京で開催されました。一国だけでは中国に対抗できない日本にとっても、歓迎すべきイベントであり、日豪の準同盟関係の強化にも寄与すればと願います。

 

もちろん、中国との経済的な結びつきは日米豪印とも強く、冷戦時代のソ連封じ込めと同じ方法はとることができません。4か国の協力体制も同床異夢となる可能性もはらんでいますが、中国をけん制する多国間協調の意義は大きいでしょう。

 

あわせて、目先の経済的利益に飛びつくことなく、私たちも中国という国を冷静に把握し、付き合うことが求められています。香港、ウイグルチベット内モンゴルで過去何が起きたか、今何が起こっているのかをよく認識しておかないと、やがては他人ごとでは済まない悲劇に見舞われることは、決して絵空事ではありません。また、最近流行のESG(環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)を考慮した社会責任投資。)投資の視点でも、経済的利益だけでビジネスを進められる時代でもないでしょう。豪州の奮闘からしばらく目が離せません。