中国による豪州への制裁措置

豪州は、今や日本を凌ぎ最大貿易相手国になった中国と対立を深めています。

鋭く対立というよりも、中国が豪州を一方的に締め上げていると表現したほうが実態に近いでしょう。牛肉に小麦、石炭などの輸入減少、留学生の送り出し停止など、中国依存の度合いが強い豪州には、こたえる報復が続いています。
日本にとっても、改めて中国リスクを認識させられる事態です。

 

豪州の2018-19財政年度で、中国への輸出額は2位の日本を2.5倍ほど上回る1532億豪ドル(約11.3兆円)で、輸出品目も鉄鉱石、石炭、天然ガスがベスト3を占めるなど、需要が特定の国に依存している構図です。

 

中国を最も得意客とする豪州ですが、近年、中国とのトラブル(もっとも先に手を出しているのは中国です)が増加しています。

 

豪州は南シナ海での中国による埋め立てや軍事化を批判しており、太平洋方面での中国海軍の動きに神経を尖らせいてます。また、豪州国内でも中国に起因する問題が多発しています。豪軍の利用だけでなく米軍も寄港するダーウィン港が中国共産党フロント企業に長期貸与されていたり、中国人実業家が豪州政界に多額の政治献金や賄賂を贈り、豪州政府の対中政策への工作や世論工作を図るなどの内政干渉さえ発生しています。

 

このような中国の脅威に対して、豪州も手をこまねいているわけではなく、外資による重要インフラの買収を審査する「クリティカル・インフラストラクチャー・センター」
を設置したり、内政干渉に対抗する立法措置を取るなどの対策を進めています。
また、海底ケーブルの設置事業や、通信の5G整備からファーウェイを除外しました。

 

翻って日本にとって、中国による豪州への「嫌がらせ」ともいえる対抗策は対岸の火事なのでしょうか。

 

日本の輸出相手は中国がシェア19.5%を占めて首位です(米国は2位の19%。ともに2018年)。
貿易品目が、一次産品や観光、観光の延長ともいえる留学生受け入れなどに偏っている豪州と比べると、日本は依然中国が必要な高度な工作機械や材料など高付加価値なものを輸出していますし、一概に豪州の境遇とは比較できませんが、豪州の苦闘を他山の石とするべきでしょう。

 

外為法改正、国家安全保障局の経済班による安全保障に関する産業への外資による投資の監視や規制も強化する動きも見られますが、無秩序な外国人による土地取引でも将来的に禍根を残さないかをよく検討する必要がります。

 

いわゆる包括的なスパイ防止法さえ存在しない日本にあって、我々が気づいていないだけで、中国あるいは外国からの政治工作や世論操作が起きていない、今後も起きないと誰が言えるのでしょうか。

 

過度に中国に接近しすぎた反動もあるのでしょうが、経済的に不利益が生じても、外国の圧力に立ち向かっている豪州の姿勢を注視すべきでしょう。そのような状況下で10月6日、日米豪印外相会合が東京で開催されました。一国だけでは中国に対抗できない日本にとっても、歓迎すべきイベントであり、日豪の準同盟関係の強化にも寄与すればと願います。

 

もちろん、中国との経済的な結びつきは日米豪印とも強く、冷戦時代のソ連封じ込めと同じ方法はとることができません。4か国の協力体制も同床異夢となる可能性もはらんでいますが、中国をけん制する多国間協調の意義は大きいでしょう。

 

あわせて、目先の経済的利益に飛びつくことなく、私たちも中国という国を冷静に把握し、付き合うことが求められています。香港、ウイグルチベット内モンゴルで過去何が起きたか、今何が起こっているのかをよく認識しておかないと、やがては他人ごとでは済まない悲劇に見舞われることは、決して絵空事ではありません。また、最近流行のESG(環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)を考慮した社会責任投資。)投資の視点でも、経済的利益だけでビジネスを進められる時代でもないでしょう。豪州の奮闘からしばらく目が離せません。

日本学術会議

日本学術会議の新規会員候補を菅首相が却下したことをめぐり、様々な論評がなされています。学問の自由の侵害といった批判的な意見から、同会議を問題視する観点から首相の判断を支持する意見まで様々ですが、大手メディアの報道では前者のスタンスの方が優勢かと感じます。

 

日本学術会議をめぐる騒動について、事の本質は実態を直視して物事を決められないことにあるのではと思います。つまり、日本は外国の脅威にさらされている、それに如何に対処するかを考えれば、今回の政府の判断は妥当であると言えるのではないでしょうか。この際、菅首相は、回りくどい説明ではなく、不適任の理由を言明すれば、それで済む話ではないでしょうか。

 

却下された面々は平和安全法制、特定機密保護法、共謀罪に反対しています。いずれも、安全保障上あるいは、国際協調のために必要な法制であり、こうした重要なことにも賛成できない者を公務員、それも実態は別にしても、政府に提言するような重責を担う公務員に採用できない旨を公言すべきではないでしょうか。

 

いくら日米安保の重要性を説いても、集団的自衛権を法的に認めなければ同盟は機能しないでしょう。アングロサクソン系5か国の諜報協力の仕組み「ファイブアイズ」や他国と諜報協力するのに、機密保全のルールもない国では相手にされないでしょう。また、テロやマネーロンダリングの阻止は世界中で協力すべきことであり、日本だけが、自国にしか通じない理屈を振り回すことが許されるのでしょうか。

 

政府で仕事をするといえども、あらゆることで政府の方針に賛成することを強制できませんが、上記3点の法制は国家の根幹に関わることであり、政府の一員になるのであれば、いわば「踏み絵」として問うことはごく自然なことだと考えます。

 

日本の安全保障環境は益々厳しくなり、他国との一層の協力が必要になるなか、一種のグローバルスタンダードを取り入れるのはやむを得ないことであり、政府は堂々と主張すればよいのです。

 

「学問の自由」などと大袈裟に騒ぎ立てるくらいなら、却下された6人も、「こちらから願い下げだ」とばかりに、政府に協力しなければよいのではないでしょうか。それでも、学術会議の会員になりたいとすれば、学問の自由よりも、自分の学問に対して政府のお墨付きが欲しいだけなのではないでしょうか。もし、そうであれば、学術会議は虚栄心しかない老人クラブといわれても仕方ないでしょう。

 

政府が、国家や国民のために必要なことは、反対があっても、当然実行する。安全保障はその最たるものであり、世界を見渡しても、安全保障に関する基礎的な制度を整えることにこれほど反発するのは、異常とさえ言えます。

 

ちなみに、防衛装備庁が最新の研究を防衛装備に取り入れることを目的にした「安全保障技術研究推進制度」に否定的な日本学術会議ですが、中国人民解放軍とも近い関係にあるとされている中国科学技術協会とは協力する覚書を交わしています。

 

こんなところにも、安全保障に対する偏った見方が依然残存する日本の学界やメディアの闇を感じざるを得ません。やはり、私たち一人一人が、素人ながらも腑に落ちないことがあれば、メディアの情報を鵜呑みにせず、自分の頭で考えることが重要なのだと認識させられます。

 

イージスアショア計画の撤回

イージスアショア計画が撤回されることになりました。

軍事の専門家ではない私が、ことの是非を論じることはできませんが、気になることを少々を挙げてみます。


<そもそも必要だったのか?>


イージス艦による迎撃に加え、常時陸上から監視、弾頭ミサイルを迎撃できるとの構想自体は歓迎しない理由のないことでした。

素人目にも、海上イージス艦を待機させつづけるよりも効率的でしょうし、イージス艦との併用で迎撃できる確率も高まることは想像できます。

また、イージス艦は本来、ミサイル迎撃のためだけに運用されているわけではなく、有事には敵艦の攻撃任務がありますし、本来こちらが主任務でしょう。

 

米国が自信をもって売り込むくらいのシステムであれば、さぞ米国で活躍しているかと思ったのですが、実は米国での配備はありません。

有用性に期待できると思える一方で、このミサイル防衛システムが展開されているのは、世界でもルーマニアのみ、米国はハワイに試験用の設備を持っているだけです。
なお、ポーランドでも建設中ですが、完成は当初予定よりも遅れ、2021年を見込んでいます。

米国のミサイル防衛事情として、攻撃側の特性に合わせて、様々な迎撃ミサイルシステムを運用しています。
ICBMから短距離ミサイル、航空機宿ローンを迎撃するため対空ミサイルまで網羅しています。


◆米国の主なミサイル防衛システム

 

イージス艦:短・中距離のミサイルを迎撃。米海軍、海上自衛隊が配備

・地上配備型中間段階防衛:可動性なし。ICBM・中距離弾道ミサイルを迎撃。アラスカ州カリフォルニア州に配備

・THHAD:可動性あり。大気圏外でミサイルを迎撃。米国、グアム、UAE、韓国に配備

パトリオット:可動性あり。ドローン、巡航ミサイル、短距離弾道ミサイルを迎撃。米国、日本等の同盟国に配備

・アベンジャーシステム:可動性あり。巡航ミサイル、ドローン、航空機などに対応。米国、同盟国に多数配備


素人ながら、ロッキード・マーティン製のイージスアショアについて、米国自身がどれほど信頼しているのか、少々疑問に感じてしまう一面ではあります。

 

もっとも「攻撃は最大の防御」と考えると、米国は「防衛」よりも、「攻撃」によって敵にミサイルを打たせないことで、抑止力を確保しています。

ICBM原子力潜水艦発射、戦闘機からの核攻撃力で旧ソ連にも、現在のロシアや中国に対峙しているので、ミサイル防衛への必要性は日本よりも差し迫った感はないのかもしれません。

 

根本的には、いつ飛来するかもわからないミサイルを打ち落とすよりも、敵に対しても、いつミサイルを撃ち込むかわからない、ミサイルを撃ち込めば報復されると敵国に思わせるほうが抑止力になるということです。


<日本の防衛予算>

予算に限りはありますし、いくら最重要であっても、防衛予算だけに振り分けることはできません。
しかし、そもそも日本防衛のために現在の予算は十分なのでしょうか?

イージスアショアが日本防衛の最適解ではないとしても、少しでも日本の安全に寄与するなら、4千億円もまったく無駄ではないとも言えないのでしょうか?

 

NATO加盟国は、算出方法も色々あるので、その額が十分とも不十分とも言えませんが、GDPの2%に相当する
金額を拠出することが目標になっています。

現実的には、この目標を達成していない国が多いのですが、決して裕福と言えない国でも2%の基準を達成している国もあります。

参考までに、日本の数値はGDP比で1%に満ちません。

 

仮に、日本にも2%ルールを適用しても、まだ中国の軍事費よりもすくなく、無駄なコストはかけられないにせよ、イージスアショアを導入できる余裕も生まれるでしょう。

イージスアショアをわきに置いておくにせよ、NATO諸国よりも遥かに深刻な危機に瀕する国の防衛費として、絶対額が少なすぎるのではないでしょうか?

 

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<そもそも専守防衛は機能するのか?>

 

広島、長崎に原爆が投下された時に、B-29は広島、長崎の上空に侵入したわけですが、今日のミサイル攻撃であれば、敵は日本の領土どころか、領空を侵犯せずに、自らを危険にさらさずに事済みます。
もちろん、サイバー、宇宙空間からの攻撃でも、領土に全く踏み込まれません。

少なくとも敵も自ら攻撃されることを覚悟で日本の領域に踏み込まれるまで、日本は攻撃しないとの文字通りの専守防衛は70年前であれば成り立ったかもしれません。
しかし、今日では単なる絵空事でしかないのではないでしょうか?

 

一旦、「専守防衛」の思考停止を投げ捨てて、実際に機能する手段を考える時なのでしょう。「専守防衛」を「平和国家日本の象徴」のように主張する向きもありますが、中国や北朝鮮さえ、実態は全く別であっても、表面上は自国を守る以外に軍事力を使わないと謳っています。

まず、軍事合理性を考え、それが財政や技術の面で実現できるのかを検討したうえで、日米同盟との整合性など、検討しなくては、まともな議論ができません。

単に「予算の無駄」や「ブースターが落下して危険」や、ましてや外国のご機嫌伺いではなく、自国防衛を最も効果的・効率的にできることを検討し、そのうえで対外関係を含めた政治的な損得を含めた戦略として議論すればいいのではないでしょうか?

コロナで大騒ぎしていますが、軍事的な有事はコロナ禍の比ではないくらいの衝撃と実害を日本にもたらすでしょうから。 

 

※参考資料

Missile Defense Advocacy Alliance
http://missiledefenseadvocacy.org/missile-defense-systems-2/missile-defense-systems/u-s-deployed-intercept-systems/aegis-ashore/

小池都知事の学歴詐称疑惑

以前から度々問題視されていた小池都知事学歴詐称疑惑について、知事のエジプト時代の同居女性の証言などを基にした書籍に加え、このところ様々な記事が散見されます。

小池百合子都知事の学歴が信じられない7つの理由(前・後編)』 黒木亮(JB Press 2020/6/3)
 
小池百合子氏とカイロ大学の深い闇』 池田信夫(JB Press 2020/6/12 )
 
『カイロ大「小池氏は卒業生」声明の正しい読み解き方』 鶴岡弘之(JB Press 2020/6/12)

この手の話題は、ワイドショーや週刊誌のネタとして面白おかしく報じられますが、今回は三面記事として看過できない深刻な問題をはらんでいます。

学歴を本当に詐称していれば、公職選挙法に違反しますし、仮に違反により罰せられなくても、学歴詐称発覚後に辞職に追い込まれた議員は過去にもいます。日本だけでなく、外国でも同様です。
 
しかし、小池知事の場合は、それよりもはるかに質が悪いと言わざるを得ない事情があります。
上記の記事での報じられたと通りとすると、小池知事はエジプト政府に全く頭が上がらい状況です。
 
当時の副首相アブデル=カーデル・ハーテム氏に都知事の父親がコネクションを作り、副首相のコネでカイロ大学2年に編入(これ自体が不正)し、カイロ大学も知事の卒業を証明できず、駐日エジプト大使館が、フェイスブックで知事の卒業を表明する声明文を発出するなど異常な事態が起きています。
 
「卒業」もエジプト政府の思惑による捏造となると、個人の歪んだ虚栄心では済まない話です。
事の善悪は別として、エジプト政府が知事のために無償の奉仕をするのでしょうか?

世界を見渡せば、汚職も腐敗もないクリーンな国は圧倒的に少数です。
例えば、公務員や政治家がどの程度腐敗していると認識されるかの指数である、Transparency Internationalが発表している2019年版の『腐敗認識指数』でエジプトは、中国(80位)、インドネシア(85位)、トルコ(91位)よりも低い106位です。
一つの指標にすぎませんが、エジプトはコネ入学や学歴を金で買うことができる国であることが実態でしょう。
 
都知事が世話になったお陰ではありませんが、エジプトは日本から多額のODAを供与されています
(2018年の支出総額は約3億ドル)。
この援助を批判するつもりはありませんが、もし本当に小池都知事がエジプト政府へのコネのおかげで不正にカイロ大学に入学・卒業していたら、今後エジプト政府から圧力を受けることなく、政治家としての務めを果たせるのでしょうか?
 
もし、知事が国政に再度転じ、政府で要職に就いた際、日本・日本国民を犠牲にしてまで、エジプト政府の利益のために働かないと言い切れるのでしょうか?
さらに悪いことに、もしエジプトが、中国やロシアから利益誘導されて、政府高官である小池氏に圧力をかけることはないのでしょうか?
 
全て杞憂、つまらない妄想と言い切れるのでしょうか?
報道が事実とすれば、これほど外国政府に弱みを握られている人物を都知事に再選させ、最悪の場合、将来国会議員に復帰させて良いのでしょうか?
 
また小池氏の豊洲市場移転、オリンピック、自身の政治スタンス等における言動も忘れるべきでありません。

豊洲移転を一時差し止め。最終的に、豊洲移転・築地再開発を発表。新計画の財源・運営費などを検討記録を残さず、側近間で決定
 
・オリンピックの会場整備で、東京都以外での仮設施設の整備費を他の自治体に負担要求。各自治体の反発で最終的には都の負担に
 
・過去の知事に対して説明責任を厳しく要求するが、自身の政策は「顧問団」や都民ファースト幹部との密室でしばしば決定 (学歴詐称疑惑も説明を果たさない点では同根ですが)
 
・東京アラート発令の意味が不明確。12日に、今後は原則発動しないこと決定(蔓延の可能性があるのなら発動すべきなのでは)

ワイドショーとしては、これほどネタになるキャラはいないでしょうが、都民、むしろ国民にとって本当にふさわしい都知事
あるいは将来の日本の政治指導者かを真剣に検討しなくてはなりません。
 
学歴詐称疑惑について都知事への疑問の声が強まる中、知事は卒業証書をやっと公開しましたが、その信ぴょう性に疑問を投げかける声もあがっています。今後とも、推移を見守り、来る都知事選では正しい選択をしたいものです。
 

新型コロナ⑦

◆変わる働き方:業務内容の定義、自立性

コロナ禍で仕事の中身、その必要性、やり方、評価方法が大きく見直される可能性があります。働く環境、待遇の変化だけでなく、従来とは異なる士気向上策、労働衛生のあり方が求められるでしょう。

また、いわゆる「エッセンシャルワーカー」が見直されるとともに、無駄なホワイトカラー業務があぶりだされ、本当に価値のある仕事と、慣習と化している仕事のための仕事が明確化すると考えられます。医師などを除き、かつて3Kとも揶揄され、近年では就労目的で来日した外国人留学生が主な担い手になっていた現業系労働の社会的な意義が再認識されたことは、必ずしも高いスキルを持たない労働者クラスにとっては好影響になるかもしれません。

エッセンシャルワーカーの特徴として、テレワークに限界がる、あるいは不可能な可能であることこと、かねて自動運転などのように人間から機械に代替される可能性が高いと指摘されていた業務が、まだまだ人間によって担われることも明白であり、単なるホワイトカラーよりも当面は「食える」仕事であるとも言えるでしょう。

一方、ホワイトカラーの仕事への影響は大きいでしょう。従来から低生産性を指摘され、どんな付加価値を提供できているのかが不明確であった少なくないホワイトカラー労働者には受難の時代がくるかもしれません。

ホワイトカラー系サラリーマンの典型的働き方である、決まった時間に出社し、決まった時間まで働く前提で、時に周囲に合わせて残業し、組織内の業務フローに従って事務をこなし、その過程で複数の決裁権者に物理的に書類を回覧し、押印し、集団が一つの場所に一同に会して、一連の業務を遂行するスタイルが大きく見直されることでしょう。

今後は、ホワイトカラー各自の業務内容と目標を設定し、それを達成する基準となる労力・時間を設定し、それを実現する限り、場所や時間は関係なく、その労働者の評価が決まるようになるでしょう。
分かりやすい例では、専ら営業目標を達成するだけを業務内容に設定されれば、それを達成さえすれば、出勤の必要もなく、一日に何時間働いても、週3日休んでも構わない働き方も認められるでしょう。

 

上記のような営業職だけでなくても、事務作業についても、労働者の自立性が今まで以上に求められます。

リモート環境下では、上司も従来ほど細かく指示できないでしょうし、業務自体の無駄がそぎ落とされれば、「なんとなくやっている」のでは業務が終わりません。一方では、業務さえこなせば、平日の日中でも自由な時間をとることもできます。勤務時間中でも病院に通院するなど所用を済ませることができ、自律的に働くことで、キャリアだけでなく、生活にも差がつくようになりそうです。

新型コロナ⑥

◆プライバシー管理の在り方

コロナ禍で、改めてプライバシーのあり方も議論されるべきでしょう。
自宅療養中の感染者の監視できず、迅速な経済支援実行のために支援対象の実情把握が必要なのに行政も本当に困っている人を把握できない。一方、コロナに感染した従業員の開示など不必要なほど神経質に迫るマスコミ、ネット世論は野放しになっている。このちぐはぐな状況を、コスト・ベネフィットを天秤にかけて判断する必要があるでしょう。
 
まず、必要な支援を迅速に行うために、行政が個人の実情を把握する必要性が浮き彫りになった点から、個人番号について考えます。本来、番号制度が不利に作用するのは、所得や資産を隠している者(不心得な自営業者や農家、課税逃れしている富裕層、犯罪収益金など)であり、一般人、特にサラリーマンに不利益は少ないはずです。また、最も福祉が必要とされる低所得者や困窮者が、自ら申告しなくても行政から必要な扶助を受けられる点では、個番号制に不利益よりも利益が圧倒的に大きいはずです。
 
紆余曲折を得て決定された国民に一律10万円支給する施策も、より効率的かつ効果的に実行きたはずです。
そもそも、一律10万円という金額自体が果たして有効なのでしょうか。本当に困窮している人には十分とは言えないでしょうし、収入が途絶えていない人には不要でしょう。
所得補償すべかの審査は手間も時間もかかるので、次善の策として実行されることになったのでしょうが、今後も教訓にすべき事例でしょう。
 
社会の公正やセーフティーネットを考慮すると、個人の収入(収入源)と資産の把握ができていれば、効率よく効果的に様々な政策を実行可能でしょう。役所や銀行での無駄で3蜜を強いられる窓口対応の付加も軽減されるでしょう。
なぜ、日本で個人番号制が十分機能していないのか。政治や行政の対応が後手になるなど、不平を言う前に、日本の番号制度を振り返ることは意義あることでしょう。個人番号の運用は既に半世紀前から必要性が認識されていながら、また機能する番号制度があれば回避できた事態を経験しながら今日に至っています。
 
<日本における番号制度の経緯>
・1960年代、コンピュータが行政分野に普及
・1970年に日本でも統一行政コードの研究会がスタート
・学識経験者がプライバシーを強調、行政事務のコンピュータ化に労組が反対、
イメージ先行で世論も反対し研究がとん挫
※一方で、既に年金記録の不正確さ、氏名のみでの本人特定の危険性が指摘されていた
・1980年度に非課税貯蓄(マル優)の仮名口座防止のための新制度を税法改正で導入も、
郵政・金融業界が反発、実施されず5年後に廃止
・2002年、住基ネット稼働も民間利用は禁止、あえて利便性に難ある設計に
・2007年、消えた年金問題発覚
・2008年、リーマンショックでの定額給付に所得制限設定できず
・2015年、マイナンバー交付開始
 
出所:『マイナンバー制度の本質と今後の展望』 榎並俊博、『マイナンバーについて考えてみた』 中村伊知哉
 
半世紀前から番号制の利用を模索しながらも、「管理社会」のイメージありきの感情論や、不正とまでは言えないまでも、資産に余裕のある人のさもしい動機で個人番号の活用が活用されずに今日至りました。そのなかで、消えた年金問題や、大不況時に助けが必要な人に助けを迅速に届けられない事態が生じてきました。
 
今日、金融機関など(銀行、証券会社、生命保険会社、損害保険会社、 先物取引業者、金地金販売会社など)でマイナンバーの申請が求められる機会には下記のようなケースがあります。
 
・株、投資信託、公社債などの証券取引
・非課税適用の預貯金・財形貯蓄
・国外送金/国外からの送金の受領
・生命保険契約・損害保険契約(一定額以上の保険金受取など)
先物取引(FX取引等)
・信託会社への信託
・1回200万円超の金地金の売却
・非上場株の配当を受け取る株主
 
しかし、2018年1月から預貯金口座への付番が開始されましたが番号の提供は任意です。

国が個人情報を管理することに感情論だけでなく、情報流出の懸念も耳にしますが、情報漏洩が絶対起きない「セロリスク」は現代の情報社会ではありえないことでしょう。流出を前提に対策をたてながら、ここでもコストとベネフィットを天秤にかけないと、結局私たち国民が損をするだけではないでしょうか。

新型コロナ⑤

◆安全保障の視点

各国の指導者がコロナ禍を“戦争”と表現していることが象徴していますが、感染症対策は安全保障の領域です。軍事組織が感染症の封じ込めの全てにおいて前面に出ることが前提ではなくても、封じ込めに安全保障の視点が有効です。

 

ダイヤモンド・プリンセス号での支援活動で自衛官の感染者はゼロでした。コロナ対策とともに、自衛隊がとった指針は私たちも学ぶべきことが多々あります。軍隊のように、明確な行動規範を持ち、その実践のために訓練し、本番では訓練の内容を忠実に実行するする、「1人1人が基本動作を忠実に、徹底的に、実施」の重要性がよくわかります。

 

新型コロナウイルス感染拡大を 受けた防衛省自衛隊の取組』

https://www.mod.go.jp/j/approach/exchange/area/euro/france/docs/20200417_j-fra_gaiyo-1jp.pdf

  

また、冗長性・余裕をもつことも必要です。コストを要しても医薬品やマスクなどの備蓄、有事の際に国が優先的に買い取る仕組みも必要でしょうし、人員、土地などスペースを確保しておくことも検討しなくてはならないでしょう。

 

政府の対応に疑問が呈されたダイヤモンド・プリンセス号での対応も、乗船者を速やかに隔離する施設がないことが船内での集団感染を加速させたのではないでしょうか。ホテルの借り上げなど代用可能な手段も必要ですが、大災害時の被災者収容にも利用可能な空いた土地や施設を維持するためのコスト負担も私たちは考えなくてはならないでしょう。

 

社会の安全を最優先するために、一人一人の協力が不可欠ですが、性善説で対策を考えることは危険どころか、滑稽でさえあります。武漢からのチャーター便の帰国者には経過観察期間を無視して帰宅した者もいました。善意に頼らず、必要な行動制限を設定し、違反者を処罰することも検討する時期でしょう。

 

今後も発生する可能性のある様々種類の有事に少しでも有効に対応するために、平時ではコストや負担にすぎないものを許容し、手順通りに進める準備を整え、有事ゆえに許されない行動と従うべき規則を決めておくことが求められます。いざ有事になれば必ずしも想定通りに進まないでしょうが、事前の準備があれば少しでも効果的に、多少なりとも不安も鎮めながら事態に対処できるでしょうから。